長谷園だより 土鍋のある暮らし




長谷園の歴史と今

1832年開窯のあゆみを紐解き、長谷園の思いをお伝えします。

茶の湯の精神と日常の暮らしをつなぐ
長谷園の伊賀焼

千利休の登場で茶の湯が急速に発展した安土桃山時代、茶人であった伊賀領主 筒井定次によって築かれた、いわゆる官窯の御用窯として伊賀焼は発展してきました。その後、歴史の流れのなか、古伊賀・再興伊賀と変遷をたどり、時の権力者が営む官窯から庶民が経営する民窯へとかたちを変えなければならない時期に長谷園は開窯しています。
江戸後期の時代の変わり目に、官窯の伝統と感性を引き継ぎながら民窯として開窯したことが「長谷園」窯の特性を基礎づけていると思われます。

「長谷園」は江戸の町を中心に始まった新しい食スタイルの卓上土鍋調理「小鍋立」の流行時期と開窯の時期が重なっていることから、開窯当初より土鍋・行平・焙烙などの耐火性の高い調理道具を作っていたと思われます。そしてそれは、他産地で作ることの出来ない伊賀陶土ならではのものづくりでもありました。

藩主の政治道具としてほとんど一般庶民がふれることのなかった伊賀焼を、日常の道具として世間に広めた「長谷園」の功績は大きく、江戸時代後期に広まった小鍋立の土鍋供給など、新しい時代の動きが追い風にもなっていたようです。

他地域や人との交わりで発展してきた
長谷園

「長谷園」は民窯としてのスタートでしたが、「古伊賀」で培われた伝統と美意識の流れを汲んでいることが、製品作りに生かされており、土鍋などの調理器に限らず、食器なども他産地と異なった伊賀焼独自の風合いを醸し出しています。
また伊賀は、御庭焼(注1)のころから茶人の古田織部、小堀遠州ら外部識者とのつながりを大切に取り入れたものづくりの姿勢がみられ、再興伊賀の時にも瀬戸の職人の知恵と文化を受け入れるなど、他地域との交流が盛んであったと思われます。

「長谷園」も京都などから職人を雇い入れて新しい感性の導入を図ったり、ある時は京都や他産地からの依頼を受けて商品作りをしたりと、異文化と人を迎え入れる垣根の低い取り組みをしてきました。文久元年(1861)に生まれた長谷園 四代目当主 長谷源治は海外への輸出も手掛けています。
※伊賀焼の歴史についてはこちらをごらんください。

現在の長谷園・製品の特徴と活動

暮らしの道具の製陶メーカー

日本各地の和食器関連製造業は商品アイテムごとの製造をしている小さな陶工所がほとんどですが、長谷園は「暮らしの道具」という広がりで食器、インテリア、厨房道具まで総合的な製造をしている製陶メーカーです。


製品開発のこだわり

長谷園は伊賀陶土の特徴である耐火性を活かした陶製調理道具を開窯時から190年間作り続けています。かつて直火にかけられる陶土は伊賀でしか取れなかったことを考えると、長谷園の歴史は日本の土鍋の歴史そのものと言っても過言ではありません。長年、土鍋や調理道具、そして食器などを作り続けてきた技術や感性は、目に見えない伝統という財産で今の長谷園にしっかりと受け継がれています。

しかし、長谷園のもの作りの面白いところは、歴史を紐解きながらも常に今の時代を見ていること、今のお客様が求めているものを作りたいという強い思いのあるところです。
【作り手は真の使い手であれ】という社是が示しているように、長谷園は常にお客様目線での商品開発を心がけています。さまざまな製品それぞれの使い方・食べ方・調理方法などにこだわり抜いた開発、特に機能土鍋に関しては、何度も料理を試作し、美味しいと納得が出来なければ世間に発表することはありません。


美味しい楽しい豊かな暮らしへのこだわり〜卓上調理の提案

長谷園は、土鍋を美味しく使っていただきたいという思いから、自社の陶製調理道具を使用した料理を日々研究開発してHPで公開しています。又、土鍋調理に限らず、伊賀焼食器を使用した盛り付けや、テーブルセッティングの提案。花入れや香りなどのインテリア製品の開発なども行い、その活動は、食にとどまらず、楽しい暮らし方の提案にまでひろがりを見せています。そんな長谷園の美味しい楽しい豊かな暮らしへのこだわりから生まれたのが【ながらの食卓】:卓上調理の提案です。


卓上調理の提案:【ながらの食卓】

【ながらの食卓】それは、【煮ながら、炊きながら、蒸しながら、焼きながら、燻しながら】と、さまざまな調理をしながら出来たてを食べる食卓。
もてなす側も招かれた側も、”みんなで作ってみんなで楽しむ!”ことがコンセプトの土鍋パーティーテーブルの提案です。
食材と土鍋を用意して食事がスタートしたら、もうだれも食卓を離れることなく、みんなが料理人でお客様。これこそが、楽しい遊びの食スタイルです。
【ながらの食卓】を体験したら、もうだれも、人を羨んだりいがみ合ったりすることがなくなると長谷園は考えました。そこで【食卓は遊びの広場だ】を旗印にして【土鍋を囲めば世界が平和になる】をスローガンに、長谷園は土鍋を囲んだパーティーやもてなしかたの配信をしています。その根底には桃山時代から続いた伊賀焼の精神背景である「茶の湯」の、もてなしの心が受け継がれているのかもしれません。
大切な家族や親しい仲間たちと囲む食卓は、心はずむ楽しい絆づくりの広場です。長谷園の土鍋が、みなさまの食卓で活躍し、それぞれの遊びの広場を創造していくことを願っております。

(注1)御庭焼(おにわやき)
江戸時代、藩主などが自分の趣向に合わせて城内や邸内に窯を設けて茶器などを焼かせたもの。