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土鍋物語
2023.01.23

「かまどさん」開発秘話 vol.2 : 天才は天災

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<前回までのあらすじ>
二人揃って呑べいで食いしん坊な「長谷園七代目当主 長谷優磁」と工場長「佐藤和彦」。
彼らは、「日本の米をさらにおいしく、誰でも簡単にご飯が炊ける土鍋を作りたい」。
そんな想いをもって、伊賀の地で土鍋の研究・製作にはげむのですが・・・。

苦悩の10年

いつものように行われる七代目と佐藤工場長の土鍋開発談義。どちらともなくご飯の話になりました。それはやっぱり偶然のタイミングで、常に旨いもんが食いたいと思っている二人の対話から始まったのです。
七代目と工場長との話の肝は「火加減なし、吹きこぼれなしの土鍋炊飯」
「そうですなー。火加減なしで、土鍋で飯を炊く。難しそうですねー。でも毎回美味しい飯が食えますなー。」と言った佐藤工場長。
それから七代目と佐藤工場長の苦悩の10年がスタートしたのです。

ヒントは大量のメモの中に

七代目は常にいつでもどこでも伊賀陶土をいかしたもの作りの事を考えています。作りたいものが尽きること無く湧き出してくると言っていました。なにかふと思いつくとメモに残すということが習慣になっています。ふと思いつくのは場所を選びませんから、七代目の周りには書き散らかした大量のメモが足跡の様に残されていきます。それこそトイレや浴室にまで。

火加減なしの炊飯土鍋が作りたい思いは当然すぐさまメモに残され、アイデアスケッチも多数作られましたが、なかなか思い通りに開発が進まず、いつしか他の膨大なメモに紛れ込んでいきました。


ちょうどそんな頃です。東京に修行に出ていた八代目 長谷康弘が戻ってきたのは。

実は当時、長谷園は存亡の危機に直面していました。阪神淡路大震災でのビル崩壊で建装タイルの需要がなくなり、伊賀土の風合いをいかしたタイル製造を生業の主体にしていた長谷製陶株式会社は大量の在庫を抱えたまま売上激減状態に陥ってしまったのです。
美味しいご飯を食べてもらいたいという思いで考えていた炊飯土鍋ですが、それどころではないという現状も開発を進まなくさせていたと思われます。

八代目の使命は長谷園の立て直し。

と言われてもそこにあるのは大量の在庫と借金の山、呆然としながらも何か再生のきっかけがないものだれろうかと思ってふと目についたのが、七代目の大量のメモやアイデアスケッチ。あちらこちらに散らばっているメモを集めて丁寧に見直していくと、埋もれていたあの炊飯土鍋のアイデアスケッチが目に入ってきたのです。
「そのときにピンと来た。」と八代目は後に語っています。
「火加減なし、吹きこぼれなしの土鍋炊飯を作りたい。」七代目と工場長が願ってから、その時すでに6年が過ぎていました。そしてそこに八代目も加わり、本格的な炊飯土鍋の開発が3人でスタートしたのです。

目指すのは ”薪で炊く竈のごはんの味”

竈に羽釜、重い木蓋をのせて薪で炊く、あの味を土鍋のガス炊飯で再現しよう。吹きこぼれ無し、火加減なしで。
炊飯理論の調査と研究をしながら、まずは長谷園のさまざまな土鍋で、かたっぱしから米を炊いて味くらべ。からのスタートです。
大変なのは炊き比べの味くらべ、なにしろ火加減なしで炊くのですから、芯が残っていたり、焦げ焦げだったり、ベチャベチャだったりと美味しいとは真逆な炊きあがりです。ちょっと良さそうに炊けたものを試食してみても、あんまり旨くない。の連続です。

天才?それとも天災?

試作品の数々

三人は、炊飯土鍋開発の始まりの頃から、長谷園を訪れる人にご飯の試食をお願いしていました。付き合いの広い七代目と佐藤工場長、戻ってきたての八代目が声を揃え、ご飯が炊けた都度人を呼んで試食してもらっていたのです。はじめの頃はみんな「ただで飯が食える。」と面白がってくれ、「今日はどうですか?ご飯炊けましたか。」とそのために訪れる人がいるくらいでしたが、なにせ吹きこぼれなし、火加減なしの炊飯。望んだような炊きあがりには程遠く、美味しいとはお世辞にも言えないしろものです。最初は喜んで寄ってきた人々が、次には義務感にかられて試食に望む事になりました。

旨くない飯の試食を続けなければならない訪問者は大迷惑です。七代目と工場長、戻ってきたての八代目は周りじゅうに試食の苦しみを科せることになってしまいました。七代目と八代目そして佐藤工場長の三人は天才ならず天災となってしまったのです。
ついには、七代目と八代目そして工場長の顔を見かけると、視線をそらせてスーッといなくなる人が多くなり、そのうちだれも三人に寄り付かなくなってしまったと言う逸話が長谷園のある伊賀丸柱地区に残っています。

三人はどこへ行くのか?どうする三人。この話は「かまどさん」開発秘話−3:ついに、そして、つぎに へと続きます。
2023年3月頃配信予定です。

(文章:土鍋コーディネーター 竹村謙二)

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